名古屋高等裁判所金沢支部 昭和41年(ラ)8号 決定 1967年4月28日
抗告人 国
訴訟代理人 川本権祐 外三名
相手方 更生会社日本醗酵化成株式会社 管財人 嘉野幸太郎
主文
原決定を取消す。
本件を金沢地方裁判所に差戻す。
理由
一、抗告の趣旨とその理由
(一) 趣旨
原決定を取消す旨の裁判を求める。
(二) 理由
抗告人(所管庁金沢国税局長)は、昭和四十一年二月八日付をもつて金沢地方裁判所から、会社更生法第一二二条第一項後段にもとずき本件更生計画案に対し、同月十八日までに同意をするよう求められたが、抗告人は、事案の性質上上級庁(国税庁長官)の指示を求める必要があるところから、その指示をまつて直に(同年三月十日)同裁判所あて書面を以つて、本件更生計画案中金沢国税局関係分のうち、「(七)前記(二)(三)(四)(六)の弁済が本計画通り完了したときは(一)の留保額を免除する。」とあるを「(七)前記(二)(三)(四)(六)の弁済が本計画通り完了したときにおいて延滞税の免除要件(国税通則法第六三条第三項の各号にかかげる事実がある場合)をそなえている場合に限り(一)の留保額を免除する。」と修正することを条件として同意する旨回答し、更生計画案どうりでは同意できない旨を明らかにした。
しかるに同裁判所は、抗告人のこの意見を顧慮することなく、本件更生計画案は、会社更生法第二三三条第一項所定の要件を具備するものとして、その認可をした。
しかし、このように徴収の権限を有する者の同意なくして国税の減免をすることを内容とする「更生計画が法律の規定に合致している」(同法第二三三条第一項第一号)ものでないことは明白であつて、原決定は取消されるべきものであるからここに抗告に及んだ次第である。
二、当裁判所の判断
(一) 本件記録によれば、本件更生計画案中、金沢国税局関係の更生計画は、別紙記載のとおりで、それは、(イ)租税債権額は、元本額金七八、一八〇、七五七円、延滞金六、四四九、一六六円の合計金八四、六二九、九二三円。(ロ)右延滞金のうち金二、四八三、二〇〇円と本件更生手続開始決定のあつた昭和三八年一二月一六日以降の延滞税延滞金を留保し、その余の額を債権元本とする。(ハ)右債権元本の弁済が本計画どおり完了したときは、何の留保額を免除する。ことを計画内容とするものであること。そこで原審は抗告人主張の如く、昭和四一年二月八日付で、金沢国税局長に対し、会社更生法第一二二条第一項の同意を求め、これに対し、金沢国税局長は、同年三月一〇日付で、抗告人主張どおり更生計画案の修正を条件として、同意する旨回答したが、原審は、右条件付回答を顧慮することなく、本件更生計画案は、会社更生法第二三三条第一項所定の要件を具備するものとして、昭和四一年三月二二日その認可決定をなすに至つたものであることが、明らかである。
(二) ところで、会社更生法第一二二条第一項所定の、税の減免についての徴収の権限を有する者の同意は、常に必ず税法上の減免要件に該当する場合でなければ絶対にこれをなし得ないものと解する要はなく、それが、税法所定の減免事由に該当しない場合でも、更生計画案全体からみて、租税債権の徴収上有利と目される如き場合は、これが同意をなし得る等、租税債権徴収の簡易、迅速、確実性等の合目的範囲内において、ある程度徴収の権限を有する者の裁量に委ねられているものと解されるし、また本件更生計画案中金沢国税局関係の前記(一)の(ハ)の留保額免除の条項が国税通則法第六三条第三項各号所定の要件に該当しないとみることにも、若干の疑問が残らないわけでもないが、それはともかく、前記認定の事実関係によれば、本件更生計画案中金沢国税局関係の前記留保額免除の条項は、まさに会社更生法第一二二条第一項後段の同意を要する場合であるから、いずれにしても、原審は、徴収の権限を有する者の同意なくして、国税の減免を内容とする更生計画案を認可したものであることに変りはなく、そしてこのような場合は、更生計画が法律の規定に合致しているとは言えないから、本件更生計画案は、会社更生法第二三三条第一項第一号所定の認可要件を欠き、したがつて、これを認可した原決定もまた失当たるを免れない。
(三) よつて、原決定は、これを取消し、なお本件更生計画案の認否は、原審において、さらに関係各当事者間で協議を重ね、調整をはかつた上で、これを決すべきが相当と思料されるので、本件は、これを原審に差戻すことにして、主文のとおり決定する。
(裁判官 西川力一 島崎三郎 井上孝一)
更生計画案(抄)
金沢国税局
(イ) 確定債権額 金八四、六二九、九二三円
届出債権額 金八七、三〇四、一九五円、内管財人において納付した金額金二、〇〇〇、〇〇〇円
被差押者より任意納付した金額 金六六三、五八五円、戻税充当額金一〇、六八七円
差引確定債権額 金八四、六二九、九二三円
内訳 元本額 金七八、一八〇、七五七円
延滞金 金六、四四九、一六六円
(ロ) 布権利の変更及び弁済方法
(一) 延滞金、金六、四四九、一六六円の内、金二、四八三、二〇〇円及び、昭和三十八年十二月十六日以降の延滞税延滞金を留保しその余の額を債権元本とする。
(二) 債権元本の弁済は差押中の動産(酒税法に基く保存酒類を含む)を昭和四十一年十二月末日までに金一三、〇八二、五〇〇円以上に売却し、その売却の都度売得金を以て直ちに弁済する。
(三) 債権元本の弁済は、売却予定計画の担保物件飯田工場の敷地及び建物機械器具の一部(別表第十三号物件目録記載の物件)を昭和四十二年十二月末日までに金二〇、〇〇〇、〇〇〇円以上に売却し、その売得金を以て従前当該物件上に存した担保権の順位に従つて弁済する。
但し右売却金額が予定価格に達せず弁済計画の履行が不能の場合は、裁判所の許可を得て本計画を変更するものとする。
(四) 前記(一)ないし(三)を控除した残額については、本計画認可決定後昭和四十一年十二月十五日を第一回とし毎年十二月十五日までに別表第五号(2) 記載の通り弁済する。
(五) 従来更生会社の財産上に存した担保権(酒税法に基づく保存酒類を含む以下同じ)は本計画認可決定後も存続する。
但し担保物件を売却した場合は、その物件の担保権は消滅する。
(六) 差押の不動産、動産(酒類原材料を含む)の中
(1) 工場財団工場抵当物件並びに工場抵当法第三条による目録記載の動産については、その売得金を優先権の順位に従つて弁済することを条件として売買契約成立の都度その差押を解除する。
(2) その他の差押中の動産については、その売却代金を直ちに国税に納付することを条件として売買契約成立の都度その差押を解除する。
(七) 前記(二)(三)(四)(六)の弁済が本件計画通り完了したときは(一)の留保額を免除する。
別表<省略>